寄与分

 Q 先日、私の父が亡くなりました。相続人は、母と、長男(私)の2人だけです。父は亡くなる直前に1か月くらい病気で入院していたのですが、母は毎日のようにお見舞いに行っていたようです。その後遺産分割するときになって、母は、「お見舞いに通った分は『寄与分』に該当するから、その分だけ多く遺産を分けてもらう権利があります。」と言い張っています。たしかに、私は、両親と不仲でこの10年ほど顔を合わせたことすらないのですが、だからといって、そのような寄与分の主張が裁判所で認められるものでしょうか。 


A このような寄与分(きよぶん)の主張が認められるのは難しいと思います。

(解説)
療養看護に関する寄与分の主張はよく見られますが、裁判所で認められるためには、それなりにハードルが高いことを知っておきましょう。
 

【1】 寄与行為の要件

民法上、寄与行為があったと認められるためには次の要件を充たす必要があります。

①相続人自らの寄与があること

②当該行為が「特別の寄与」であること

夫婦間の協力扶助義務の範囲内の行為であれば「特別の寄与」にはなりません。つまり、被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待されるような程度を超えるような貢献でなければ、この要件を充たしません。

③被相続人の遺産が維持又は増加したこと

寄与行為によって「精神的安定を与えた」だけではこの要件を充たしません。

④寄与行為と被相続人の遺産の維持又は増加との間に因果関係があること

寄与行為が財産上の効果と結びつく必要があります。

 

【2】 本件のような療養監護の場合

(1)被相続人と母は夫婦だったわけですから、母の療養看護が、通常期待されるような程度を超える「特別の寄与」でなければなりません(要件②)。そのためには療養看護の必要性が高い場合やその期間が長期であることが必要とされます。実務上は1年以上を必要とする場合が多いようですから、1か月程度で「特別の寄与」と認められるのは容易でないでしょう。

(2)仮に「特別の寄与」であると認められたとしても、母の療養看護によって被相続人が支出(看護費用)を免れて遺産が維持されたと認められなければなりません(要件③)。ところが、現在では、病院の看護師等による看護が行われており、母の療養看護によって被相続人が看護費用を免れるとの関係が認められることは困難でしょう。

 

【3】 結論

母の主張が裁判所で認められるのは難しいと思います。もっとも、本当に主張されたいのは金銭面のことだけではないように思われます。あなたに何を伝えたいのか聴いてみる姿勢が大切ではないでしょうか。